さまざまな子どもたちの学び方を広げるデジタル図書

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今さらながら電子書籍というのは学習に困難のある子供たちの学びを支えるためには有効だと思う。
特に、最近注目しているEPUBやその元となっているDAISYを多くの人に知って欲しい。
こちらに紹介したiBooksもEPUBの1つである。

http://magicaltoybox.org/kinta/2016/06/29/13450
また、最近はiPadでDAISYを作れるアプリも大阪の山本さんが開発中です。
これが出てくれば手軽に電子書籍が使えるようになります。
ところで、表題の原稿は伊藤忠記念財団のわいわい文庫に寄稿した原稿です。
Not Found | 公益財団法人 伊藤忠記念財団
伊藤忠記念財団は、子ども文庫助成(本購入・病院施設読書支援・100冊助成など)と電子図書普及(マルチメディアデイジー図書の提供など)を通じて、青少年の健全育成に貢献していきます。
公開されている文章だし、私が書いたものなので、こちらにも掲載しますね。
ちょっと、こなれてない書き方が気になりますが、参考にしていただければ幸いです。

はじめに
思い返してみると、私は本好きだったようです。高校が自宅から電車で1時間以上かかるところにあったので、通学の電車では必ず本を持っていました。読む本は、純文学というわけでもなく、横溝正史の金田一耕助シリーズとか、星新一のショートショートとまったく統一性もなく、父親の本棚から勝手に持ちだしては読んでいました。
読むことは好きだったにもかかわらず、文章を書くのはまったくの苦手で、原稿用紙1枚を埋めるのにも四苦八苦していました。どうしてそうだったのかと思い返すと、漢字を覚えるのが苦手だったからだったようです。本好きだったので漢字は読めましたが、書こうとすると字が出てきません。パソコンなんてない時代ですからそれだけで苦労をしていたように思います。
そんな私が、社会人になってワープロやパソコンに飛びついたのはいうまでもありません。今となっては文章を書くのが仕事のようになっていますので、当時の私を知っている小学校の先生が見たら、想像もできないでしょう。
発展するICT機器の普及で、これまで困難だったことが、別の方法で実現するようになっています。私の、文書作成などはまさにそうですが、「読書」ということも同じように「別の方法」でできるようになってきました。
デジタル教科書を必要とする子どもたち
私は、平成22年頃からデジタル教科書についての研究を続けてきました。この研究では、紙で印刷された一般的な教科書では学ぶことが困難な、視覚障害、発達障害、肢体不自由のある児童生徒などに別の形の教科書(デジタル教科書)が提供されれば、彼らの学びが変わっていくのではないかと考え、はじめたものです。
教科書が紙に印刷されていれば、全盲の生徒はまったく読めませんし、文字の大きさが小さければ弱視の生徒は見えにくくなります。読字障害のある生徒の場合には文字を目で追うことに困難があったり、文字が踊って見えたりする人もいます。手の運動機能に麻痺のある生徒の場合にはページをめくることがむずかしくて自分では、読み進められない可能性もあります。
そういった困難が、デジタル教科書になることで「音声で読み上げる」ことで文字を聞いて理解できたり、タブレットPCの中に入れれば、指で画面を広げて簡単に文字を拡大することができます。また、手に麻痺があっても、パソコンの中に教科書のデータが入っていれば、その人なりの特別な入力装置を利用することで「自分で」読み進めることができます。デジタル教科書には大きな期待がありました。
著作権法の改正により対象者が広がった
平成22年といえば、著作権法が改正された年です。この年に、障害者の情報利用の機会の確保を目的として、デジタル録音図書(DAISY図書)等の作成や、映画・放送番組への字幕・手話の付与等、幅広い行為が可能になったり、利用の対象者も広がることになりました。このわいわい文庫もその流れの中で、活用できるようになったものです。
教科書のデジタル化が抱えている課題
さて、デジタル化されたことによって、障害のある人にも、使いやすくなりましたが、教科書のデジタル化ではまだまだ解決しなければならない課題も多くありました。私たちの研究では「学習者用デジタル教科書の定義」「さまざまなコンテナで検討することの必要性」「制作コストの課題」「著作権の問題」「研修システム」といった課題を整理しました。以下でそれらについて説明します。
(1)学習者用デジタル教科書の定義
障害のある児童生徒のためには「教科書バリアフリー法」という法律の下に、教科書のデジタルデータが提供されるようになっています。しかし、今後はそれ以外の子どもたちにもデジタル教科書が提供されるようになったときに、どういった法律の整備があればいいか、まだ決まっていません。「紙の」教科書は無償給付の対象になっていますが、デジタルはどうなるか分かりません。そこが整備されないと今後普及するためには時間がかかるでしょう。
(2)さまざまなコンテナで検討することの必要性
デジタル教科書が例えばDAISYのような形式になったとしても、データだけでなくそれを再生するソフトの機能やOSの問題。ハードがどのような入力装置を使えるかなども課題になります。私たちは「コンテナ」という言葉で、さまざまな次元での入れ物についてアクセシビリティの機能を確認していくことが大切だろうと考えました。
(3)製作コストの課題
いまの紙の教科書はまずは紙で印刷されるものを考えてからデジタルのデータにするという流れになっています。そうすると、作業の手間もたいへんですし、データがアクセシブルになっていない可能性があります。それよりは、最初からデジタルを意識して制作することで、制作のコストが下がるのではないかと考えています。また、教科書発行者が過度な負担になってしまうと、良いものが作れないだろうとの心配もしています。
(4)著作権の問題
今のところ「紙の」教科書についての著作権者の許諾はとっていますが、デジタルについてはその都度の許諾をとるという形になっています。もちろん、教科書バリアフリー法もありますが、一般に普及するデジタル教科書の場合には別の話です。そうしたときに、デジタル教科書に関係する著作権法の整備は求められるのだろうと思っています。
(5)研修システム
デジタル教科書が出てくればすぐに先生方が授業に利用してもらえるというわけにはいかないと思っています。先生方が使えるようにするためには、どのようにすればより効果的か、その研修の方法なども整理する必要があると考えています。
これらは、どれも解決するためには時間がかかることですが、多くの人に理解してもらい、良い方向に変わってもらえればと思っています。
「文化を受け継ぐ」ものとしての本
さて、冒頭で「本好き」ということを書かせてもらいました。今でも、週に1冊ぐらいは本を読んでいますが、本というのは「文化を受け継ぐ」ものだろうと考えます。本を読もうと思っても、なかなか時間がとれないとか、高いので買わないという人もいます。
でも本当にそうでしょうか?
もしも本がなければ、ある考えや情報を得るためには直接その人に聞きに行かなければなりません。直接話を聞くのって、時間もお金も相当かかります。その意味では図書館に行けば手軽に本が手に入りますし、有名な人のお話を聞くよりも密度の濃い情報を入れられます。もちろん、今の時代はインターネットが普及していますので、どこでも情報が入ると思うでしょう。しかし、インターネットで広がっている情報は編集されていないものが多く、その情報の確からしさや読みやすさでは本にはなかなか勝てないと思っています。そういった意味では、今でも文化を伝えるものとしての本の役割は大きいと思っています。
しかし、そういった本の良さがなかなか伝えられないのが、障害のある子どもたちです。障害があるためにさまざまな情報が入手しにくくなっていて、一般の子どもたちが気軽に本を選んで読むのと同じことができない場合があります。そのためにも、障害のある人への電子図書が普及すれば手軽に本を読み、読むことの楽しさを知り、さまざまな文化に触れることはとても価値が高いと思っています。
目で文字を追うことだけが読書ではない
本を読むというと、目で追わなければならないと思い込んでしまいますが、文化を受け継ぐということを考えるのなら、聞いて学んでもかまわないと思
います。文字の文化が普及していない時代でも口伝(くでん)といって、情報を口伝(くちづたえ)で継承していきました。人間は、文字よりも音声のほうを古くから利用していたのです。電子図書の音声読み上げ機能は多くの人にとってその利用価値は高いのだと思っています。
また、印刷されたものをただ目で追うことは、視知覚機能に困難がある人でも、文字の大きさを変更したり、色を変えたり、読む部分をハイライトさせるなど、読みやすい形で提示できると、聞いて理解しつつ、文字の理解が助かる人もいます。こういった、複数のモードから学ぶことは外国語学習ではよく行われていますが、日本語の本や語学学習以外でも効果的だと思います。
そういった意味でも、電子図書を有効に活用し、さまざまな子どもたちの学びを広げていってほしいと願っています。

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